枯野船(3)……「ܚܢܐ」(男根)について

 禊祓の場面に出てくる「衝立船戸神」の「船戸」は、日本書紀では「岐」に作られる。こういう場合、この神名において普遍的なものは表記ではない。先に有るのは「フナト」(トは甲類)という言葉である。漢字の「船」の意味、漢字の「岐」の意味、それらは「フナト」の意味に関わりがあるかもしれないが、「フナト」の意味そのものではない。真の問題は、「フナト」という言葉そのものである。
 さて、枯野船の説話においては、「髀」(ノーモン)の役目を果たしていた樹から「船」が作られる。仮に「衝立船戸神」が「髀」であるとするならば、この「船」の前身は「衝立船戸神」と言える。もちろん、「衝き立つもの、衝き立てるもの、衝き立っているもの」だからこそ、「船戸神」は「衝立船戸神」に作られる。「フネ」の前身は「衝き立つもの」なのである。では、前身が「衝き立つもの」であるところの「フネ」という言葉は、如何なる言葉なのか。


   ・「フネ」と受け止められる可能性のある子音対……「HN」、「XN」、「PN」


 倭音化して受け止められた時に、「フネ」と受け止められる可能性のある子音対は上記の三つ。しかし、第一に検討すべきは、そのうちの「XN」である。日本書紀において「岐神」に作られる「フナト神」はいわゆる道祖神(その多くは男根の形)とも解し得るが、実のところ、「the privy parts」という意味を持つ「XNA」という綴りのシリア語がある。男性名詞だから、要するに「男根」の意味だ。


   ・「XNA」(動詞)   to bend a bow
   ・「XNA」(名詞)   a bending (転じてthe privy parts)


 ところが、この男性名詞「XNA」は、動詞「XNA」(弓を張るなどの意)の派生語であり、また、その動詞「XNA」には「XNWTA」(Tはタウ)という方言形が存在する。この方言形は子音対「XNT」を含んでおり、「衝立フナト神」の「フナト」と直接の対応関係にある。まさしく「男根」は「衝き立つもの」であることを考えれば、前身が「衝き立つもの」であるところの「フネ」という言葉は、つまり前身が「衝き立つもの」であるところのものとして古事記が提示する「フネ」という言葉は、「男根」を意味する男性名詞「XNA」に重なると言えるだろう。


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