「御名方」の標示するもの

 7月1日の稿においては、「星神香香背男」の「香香背」が「KWKB」の音写であろうことを述べた。「KWKB」の意味は単に「星」(star)だが、「星神」であるところの「香香背男」は、さらに進んで二十八宿の【星】(Magha)を標示している。


   於是二神誅諸不順鬼神等、一云、
   二神遂誅邪神及草木石類皆已平了。其所不服者唯星神香香背男耳。
 

 まず最初に日本書紀の記述。「諸不順鬼神等」と述べてから、「其所不服者唯星神香香背男耳」と述べる以上、「星神香香背男」は「鬼神」に含まれる文脈である。ところが、二十八宿の【星】に関し、摩登伽経に「属於鬼神」とある。


   ・古事記の「建御名方神」……「御名方」は「南方」と読める
   ・日本書紀の「星神香香背男」……二十八宿の「星」は南方


 いわゆる出雲平定の場面において、日本書紀では平定すべき最後の人物として「星神香香背男」が登場するが、古事記では替わりに「建御名方神」が登場する。二十八宿の最も一般的な配置(高松塚古墳など)において【星】は南方に描かれるが、どういうわけか、「御名方」も「南方」と読める。「星神香香背男」が「南方」ならば、この「星神」は他ならぬ【星】(Magha)だろう。


   牛星蝕者。出家之人。及南方者。禍患滋多。(摩登伽経)
   牛主南方赤衣盗賊。(摩登迦経)
   無容宿者。主一切南国。(舍頭諫経)……※無容宿は牛宿に同じ


   月離牛宿。生有名称。(摩登伽経)
   無容宿日生。幼有名称。(舍頭諫経)


 さて、古事記の「御名方」が「南方」ならば、古事記が「御名方」に作る意味は何か。摩登伽経や舍頭諫経において、【牛】が「南方」に結びつけられ、「名称」に結びつけられている。古事記の「御名方」は【星】を標示しつつ、同時に、【牛】を標示していると見なければならない。この点は極めて重要である。


━追記━(2010年10月15日)
 古事記に出てくる「針間」の「伊那毘」(イナビ)という地名は、播磨国風土記の「印南」(イナミ)に当たる(このことは疑うべくもない)。これが二十八宿の【牛】の和名であることは別稿(下記URL)で述べた。
 ところが、上記の通り、これを摩登迦経は「南方」に結びつけ、舍頭諫経は「南国」に結びつける。一方、「印南」という表記は、このように表記されることにより「イナミ」(二十八宿の【牛】の和名)を「南」に結びつけている。即ち、「印南」という表記において「南」は借訓表記だが、この借訓表記は、漢字本来の字義を意識して用いられていると言えそうである。


  http://d.hatena.ne.jp/ywrqa/20090715/1247584997

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