月宿としてのアルファベット
著名なジョセフ・ニーダムの『中国の科学と文明(5)天の科学』の脚注(73頁)に、「Moranは、最古のアルファベット文字が28の月宿の記号に由来したということを示そうとし」云々と出てくる。この観点は注目に値する。但し次のようにも述べられている。
中国で一般に用いられた円環=連結線による描写法の約束に従って
宿の星座を図式化した小図が、Moranが考えているようには、古代セム
語文字の形に影響を与えるようなことはほとんどなかった。というのは、
これらは商代というよりは戦国時代もしくは漢代のものであって、したが
ってずっと後のものであったからである。
ニーダムはフェニキア文字の成立年代が古いことを念頭におきつつ、否定的に見ているようだが、たとえばフェニキア文字の字形の変遷を追いかけてみると、「X」の字形が、「日」のように見えたり、「月」のように見えたりする一時期がある。だからどうだというわけでもないが、未だ気づかれていないことがあるのではないか。次のような奇妙な事実がある。
・安寧……「室」………「A」
・懿徳……「壁」………「B」☆
・孝昭……「奎」………「G」☆
・孝安……「婁」………「D」☆
・孝霊……「胃」………「H」☆
・孝元……「昴」………「W」☆
・開化……「畢」………「Z」
・崇神……「觜」………「X」
・垂仁……「参」………「θ」☆
・景行……「井」………「Y」
・成務……「鬼」………「K」★
・仲哀……「柳」………「L」★
・応神……「星」………「M」……参考:インド名「Maghā」
・仁徳……「張」………「N」
・履中……「翼」讃……「S」☆
・反正……「軫」珍……「O」
・允恭……「角」済……「P」
・安康……「亢」興……「C」
・雄略……「氐」武……「Q」
・清寧……「房」………「R」
・顕宗……「心」………「Σ」☆
・仁賢……「尾」………「T」
中国の二十八宿の「鬼・柳」という並びを見ると、頭子音が「K・L」という並びに概ね合致する。ところが、それぞれ前後に並べてみると、まるで合致しない箇所もあるにせよ、自国語の音韻として受け取るが故に原音から少々ずれる範囲と見なせる対応が随所に見出される。どちらからどちらへ、という点については不明と言わざるを得ないにしても、この対応は偶然の範疇を超える。