「山辺道勾之岡上」(崇神陵)の「勾」は「ܡܩܘܪܐ」

   本稿を読む前に、6月21日の《「勾大兄王子」の「勾」について》の稿、
   《「讃・珍・済・興・武」は「翼・軫・角・亢・氐」か》の稿をお読み下さい。
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 日本書紀安閑天皇の御名代の記事の「牛」が月宿の【牛】ならば、並び順から自動的に、崇神天皇は【觜】ということになる。インドの「Mrigasiras」である。ここで「mriga」は「鹿」の意、「siras」は「あたま」の意。大体において宿名を意訳に作る舍頭諫経では【鹿首】。もちろん「首」は「あたま」の意味である。


   觜有三星。形如鹿首。……属於月神。即姓鹿氏。[摩登伽経]
   鹿首宿者。有三要星。形類鹿頭。……主善志天。姓號長育。[舍頭諫経]


 インドの神話において「Soma」(月神)と「Rohini」(摩登伽経は【畢】に作り、舍頭諫経は【長育】に作る)は密接不可分な関係にある。中国においても「月に畢りぬ」という定型句になっている。舍頭諫経が姓を「長育」に作ることは、摩登伽経が主宰神を「月神」に作ることとの関係において捉えられるだろう。


   ・「mriga」……a forest animal or wild beast, game of any kind,
            (esp.)a deer, fawn, gazelle,antelope, stag, (以下略)
            the deer or antelope in the sky
            (either the Nakshatra Mriga-siras or the zodiac Capricorn)


   ・「makara」……a kind of sea monster (sometimes confounded with
              the crocodile, shark, dolphin & c.)
             Name of 10th sign of the zodiac(Capricornus)


 それよりなにより、重要なことは、「鹿」を意味する「mriga」というサンスクリットは、月宿の【觜】を意味すると同時に、時として西洋で言うところの「山羊座」を意味するということである。つまり、西洋で言うところの「山羊座」は、インドでは「makara」(鰐)とも呼ばれ、「mriga」(鹿)とも呼ばれる。
 「牛」を放つことが「勾」(マカリ)という名を後世に伝えることになるのは、二十八宿の【牛】が「山羊座」のβ星であり、「makara」(鰐)であるからに他ならないが、その「山羊座」であるところの「makara」(鰐)は「mriga」(鹿)とも呼ばれるのである。しかし、もともと「mriga」の意味は「鹿」であって、インドの言葉の範囲内で考える限り、月宿の【觜】(舍頭諫経は【鹿首】に作る)を意味するのは分かるが、「山羊座」を意味するのは奇異と言わざるを得ない。


   ・「MQWRA」……a) a bird's beak.
              b) a canal, aqueduct, cistern.


 ところが、「觜」(くちばし)を意味するシリア語は「MQWRA」である。ということは、月宿の【觜】は「MQWRA」に翻訳できる。即ち、「Mrigasiras」を意味するところの「mriga」は「MQWRA」に翻訳できる。この「MQWRA」(シリア語)は「makara」(サンスクリット)との掛詞になる。以上の脈絡において「makara」(鰐)と「mriga」(鹿)は通用するのである。有り体に言えば、「makara」は「MQWRA」に聴こえるが故に「mriga」とも言い得るのである。


   【觜】崇神天皇……帝紀中に「勾」の用字あり(山辺道勾之岡上
   【牛】安閑天皇……帝紀中に「勾」の用字あり(勾之金箸宮)


 さて、その場合、「勾」という表記は、「makara」(サンスクリット)を表すと同時に、「MQWRA」(シリア語)を表す、ということにもなろう。古事記の「勾」という表記は、実際そのように用いられている。いわゆる帝紀部分において大きな要素を占めるのは宮都と陵墓だが、それらを網羅的に調べると、「勾」が用いられているのは、【牛】に当たる安閑天皇、【觜】に当たる崇神天皇、この二者に限る。「makara」であるところの天皇と「MQWRA」であるところの天皇の二者に限って、「勾」が用いられているのである。古事記の表記の水準が知られよう。

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