「入鹿」について──「ܝܘܪܩܐ」と「ܚܝܬ」の関係

 日本の古代文献においては、シリア語のアルファベットの「A」を「2」と数えていることを7月9日の稿で述べた。そう数える場合、たとえば、「BA」=「3+2」=「5」=「D」、ということになる。「BA」の意味は「戸」だが、アルファベットの「D」の意味も「戸」とされる。つまり、このケースにおいては、「BA」と「D」の数価が一致するだけでなく、意味も全く一致している。


   ・「BA」……数価は「5」、意味は「戸」。
   ・「D」……数価は「5」、意味は「戸」。
   ・綴り「DLT」……数価は「545」。


 但し、アルファベットの「D」を綴った時の「DLT」は「545」である。数価が一致するのは、単に「D」と記す場合に限る。しかし、単に「D」と記そうが、綴って「DLT」と記そうが、どちらも「Dolath」であることに変わりはない。その意味において、やはり「BA」は「Dolath」と言える。


   ・「YWRQA」……数価は「529」、意味は「青白い」。※名詞としては「野菜」
   ・「X」……数価は「9」、意味は不明とされる。
   ・綴り「XYT」……数価は「529」。


 この手の計算(ゲマトリアと言われる)の中で、まず最初に注目しておきたいのは、「YWRQA」(529)が「XYT」(529)に一致する、という事実である。単に「X」と記そうが、綴って「XYT」と記そうが、どちらも「Cheth」であることに変わりはない。その意味において、やはり「YWRQA」は「Cheth」(要するにアルファベットの「X」である)と言えるわけだ。


   【虚】神武天皇「Dhanistha」(西洋で言うイルカ座)……「YWRQA」(529)
   【觜】崇神天皇「Mrigasiras」(単にMrigaとも言う)………「XYT」(529)


 しばしば「二人のハツクニシラス」が議論の対象になる。「シラス」という倭訓は、「siras」(鹿首の首)との掛詞だろう。「シラス」であるところの月宿の【觜】は「XYT」に該当し、その「XYT」(529)は「YWRQA」(529)に数価が一致する。動物の「イルカ」の語源が「YWRQA」であるかどうか定かではないが、ここで「イルカ座」の「イルカ」は「YWRQA」である、と仮定してみよう。その場合、「YWRQA」が「XYT」に一致するということは、月宿の【虚】であるところの神武天皇が月宿の【觜】であるところの崇神天皇に一致するということである。だからこそ「二人のハツクニシラス」という形で神武と崇神が位置づけられるのではないか。
 さて、そうしてみると、「イルカ」の漢字表記の「入鹿」が「鹿」を含む意味合いも、これと同じ脈絡において捉えられるだろう。即ち、「Mriga」(鹿)であるところの「XYT」(529)に「YWRQA」(529)が重なるからこそ「イルカ」(YWRQA)は「鹿」を含んで「入鹿」に作られるのだ。結局、この「入鹿」という表記は、「イルカ」であることにおいて月宿の【虚】を表し、尚かつ、「鹿」を含むことにおいて月宿の【觜】を表す。そういう工夫された表記と言えよう。

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