「伊波礼毘古」は「イルカ座」(ܝܘܪܩܐ)

 記紀帝紀部分において共通して重要なのは、いわゆる神武を初代天皇に位置づけている点だろう。安閑天皇が月宿の【牛】ならば、神武天皇は月宿の【虚】ということになるが、その場合、記紀は月宿のトップに【虚】を位置づけていることになる。中国における月宿のトップは【角】であり、インドにおける月宿のトップは【昴】である。一応はインドの書物の翻訳である摩登伽経や舍頭諫経においても、やはり月宿のトップは【昴】である。ところが、日本の記紀は、この点に関しては中国ともインドとも異なり、「イルカ座」であるところの【虚】をトップに据えているのである。


   【虚】神倭伊波礼毘古「Dhanistha」……イルカ座……YWRQA(529)


 その「イルカ座」であるところの天皇古事記は「神倭伊波礼毘古」、日本書紀は「神日本磐余彦」に作る。「イハレ」が「磐余」に作られる時、「イハレ」の「イハ」は「磐」(英語のstone)に関係があるようにも見えるが、古事記は「伊波礼」という音仮名表記に作る。この場合、「天国押波流岐広庭」の「波流岐」がシリア語の「PRXA」と考えられるのと同じように、「神倭伊波礼毘古」の「伊波礼」の箇所についても何らかのシリア語が想定されよう。


   BRYΣYT BRA ALHA YT ΣMYA。 WYT AROA。 [創世記 1-1]
   (※ここで第一文は「ΣMYA」で終わっている点に注意)


 そこで注目されるのは、まず創世記の冒頭である。「はじめに神は天と地を創造した」と訳される箇所だが、シリア語の聖書(ペシッタ訳)は、「ΣMYA」(天)という語の後ろに明確にピリオドを打っている。ならば、「はじめに、創造した、神は、を、天」で切れて、「また、を、地」と続いている。そう理解すべきだろう。シリア語の聖書における創世記の第一文は、「はじめに神は天を創造した」である。ここで仮にシリア語の聖書本文において「A=2」のシステムが働いているとすると、「天」であるところの「ΣMYA」(472)は「OPRA」(472)に重なる。はじめに神が創造したのは、「ΣMYA」(天)でもあり、「OPRA」(塵)でもある、ということになる。ところが、創世記のいわゆるアダムが造られる場面は次の通り。


   WGBL MRYA ALHA LADM OPRA MN ADMTA。 [創世記 2-7]
   (※「MN」を「of」と見る場合、「OPRA」の前にも前置詞が必要)


 この箇所は、ヘブル語のマソラ本文に対し、「神ヤハウェは大地の塵をもって人を形造り」と訳される箇所だが、シリア語の聖書は、そのようには訳せない。「〜から」に当たる「MN」の後ろは「ADMTA」であり、「〜を」に当たる「L」の後ろは「ADM OPRA」である。ならば、この箇所は、「ADMTA」から「ADM OPRA」を造った、と読むべきである。その場合、「ADM」も名詞、「OPRA」も名詞だから、両者は同格。したがって、「ADM」を「人」と訳すのであれば、「ADM OPRA」は要するに「OPRAであるところの人」(塵の人)である。
 つまり、創世記冒頭の「ΣMYA(天)を創造した」は「OPRA(塵)を創造した」と読め、いわゆるアダムが造られる場面は「OPRA(塵)の人を造った」と読める。そう読める本文(ないし読むべき本文)をシリア語の聖書は持っている。異なる箇所に出てくる二つの事柄は、実は同じ一つの事柄を言っている、ということではないか。ここで「ADM OPRA」(529)と「YWRQA」(529)の数価が一致し、また「YWRQA」が「イルカ座」を含意すると考えられる以上、「イルカ座」であるところの「伊波礼毘古」の「伊波礼」は、「OPRA」の音写と見るべきだろう。


   ・「BRYΣYT」……「1243」
   ・「BRA」 ………… 「305」
   ・「ALHA」 …………「50」
   ・「YT」 ……………「520」
   ・「ΣMYA」 ……… 「472」
   合計の「2590」は「YWRQA」(529)に呼応


 「ADM」という語は、人は人といっても男であり、尚かつ、抽象化された意味での男である。そのことも踏まえるならば、結局、「ADM OPRA」の「OPRA」を「伊波礼」に作り、「ADM」を「毘古」に作ったということではないか。「YWRQA」(イルカ座)であるところの天皇をトップに据え、その天皇の名前を「伊波礼(OPRA)毘古」に作る脈絡は、シリア語の聖書本文の脈絡に等しいと言える。創世記冒頭の第一文においては、「ΣMYA」(472)が「OPRA」(472)に重なるだけでなく、第一文の全体(BRYΣYT BRA ALHA YT ΣMYA)の数価が「2590」であり、「YWRQA」の数価である「529」に呼応している。この点も見ておきたい。創世記冒頭の第一文が「YWRQA」(529)に置き換えて読めるとすれば、これは結局のところ、最初のものは「イルカ座」と言っているのであって、記紀の定める初代天皇が月宿の【虚】(Dhanistha)であることに合致する。

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