死海写本の傍通暦(zodiacal calender)

 実のところ死海写本にも月宿傍通暦に似たものが見られる。但し、月宿(lunar mansion)ではなく、十二宮(zodiac)を用いて記されている。即ち、各月の各日に対し、月(moon)が何座に位置するかを(たぶん一年分)記したものである。たとえば「ADR」の月(month)の場合、1日と2日が「DKRA」、3日と4日が「十WRA」、5日と6日と7日が「十AWMYA」、という具合に続いている。むろん原本には欠損があるが、以下のように復元されている。


   【4Q318(4QBr ar)4QBrontologiom】Frag. 2 col.?(Col.?)
   ADR
   B1 WB2          DKRA(月末と重複する)
   B3 WB4          十WRA
   B5 WB6 WB7      十AWMYA
   B8 WB9          SRΘNA
   B10 WB11        ARYA
   B12 WB13 WB14    B十WL十A
   B15 WB16        MWZNYA
   B17 B18          OQRBA
   B19 WB20  (21)    QΣ十A
   B22 WB23        GDYA
   B24 WB25        DWLA
   B26 WB27 WB28    NWNYA
   B29 WB30        DKRA(月初と重複する)


 簡単に言えば、月(moon)が「DKRA」(おひつじ座)から「DKRA」(おひつじ座)までを動くのが「ADR」の月(month)である。この月(month)において、太陽は「DKRA」(おひつじ座)に位置するので、この月(month)は、要するに太陽占星術で言う「おひつじ座」ということになる。今日「おひつじ座の生まれ」と言う時の「おひつじ座」である。新月(new moon)の際に、太陽の位置と月の位置が重なり(conjunction)、満月(full moon)の際に、太陽の位置と月の位置が正反対になる(opposition)。この点に注意したい。


   【月宿傍通暦】(但し「角月」は「三月」とする)
   (正月)虚危室〜星〜虚危室   (星月、Māgha)
   (二月)室壁奎〜翼〜室壁奎   (翼月、Phālguna)
   (三月)奎婁胃〜角〜奎婁胃   (角月、Chaitra)
   (四月)胃昴畢〜氐〜胃昴畢   (氐月、Vaishākha)
   (五月)畢觜参〜心〜畢觜参   (心月、Jyaishtha)


 さて、ここで注意すべきは、死海写本の傍通暦(星座に対する月の運行を記した暦)においても、宿曜経で知られるような月宿傍通暦においても、同じように月初と月末に重複が生じるという点である。たとえば「ADR」の月(month)の場合、上記で見た通り、「DKRA」(おひつじ座)が月初と月末に出てきて重複する。その一方、「角月」(Chaitra)の場合、「奎・婁・胃」の3宿が月初と月末に出てきて重複する。この重複する部分を両者で見比べることにより、以下のような対応が導かれよう。


   【月初と月末の宿の重複──4Q318との対応】
   (正月)虚危室……DWLA(みずがめ座)………(KNWN B)
   (二月)室壁奎……NWNYA(うお座)……………ΣBΘ
   (三月)奎婁胃……DKRA(おひつじ座)…………ADR
   (四月)胃昴畢……十WRA(おうし座)…………(NYSN)
   (五月)畢觜参……十AWMYA(ふたご座)………(AYR)
   (六月)参井鬼……SRΘNA(かに座)…………(XZYRN)
   (七月)鬼柳星……ARYA(しし座)………………(十MWZ)
   (八月)張翼軫……B十WL十A(おとめ座)………(AB)
   (九月)角亢氐……MWZNYA(てんびん座)……(AYLWL)
   (十月)氐房心……OQRBA(さそり座)…………(十ΣRY A)
   (十一月)心尾箕……QΣ十A(いて座)………(十ΣRY B)
   (十二月)斗女虚……GDYA(やぎ座)…………(KNWN A)


 無論これは、「奎・婁・胃」の3宿の一つ一つが、どれも「DKRA」(おひつじ座)に属す、ということを言っているわけではない。実際に「おひつじ座」に属すのは婁宿と胃宿だが、双方の傍通暦を見比べた時に、上記のように対応させて見ることができる、という意味である。しかしながら、このように見ることができるということは、取りも直さず、彼方の「ADR」の月(month)が此方の「角月」(Chaitra)ということである。彼方の「AB」の月(month)が此方の「室月」(Bhādrapada)ということである。この「AB」は、実のところ記紀に記述されている。

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